ドラマのワンカットのような瞬間
はじめまして。上海と申します。
カオマンガイが好きです。
ドラマのワンカットのような瞬間
ドラマみたいだったよ、と言われたあの日を、今でもたまに思い出します。一昨年の秋ごろだったでしょうか。私は薄手の長袖を着ていたと思います。一つ年上の山本さん(仮名)と初めてのデートの日でした。その人は、海鮮が食べたいという私の要望に応え、どこかの海鮮居酒屋を予約してくれていました。現地集合でと、地図が送られていたのですが、複雑に入り組む都会の迷路は、よく私を道に迷わせました。
早めに家を出たのに、刻刻と集合時間は迫ってきます。私は山本さんに電話をかけました。19時ごろだったので、ほとんど夜になった街で、車のヘッドライトやテールライトがちらちらしていました。
もうほとんど近いところまで来てるんだけど、そっからが分からないよ。
わかった、じゃあそこ動かないで。周りに何が見える?
私は周りを見渡しました。
○○ビル、、▽▽ビル、、セブン、、◇◇薬局、、、猫、、。猫がいる。
猫?(笑)
同じような場所をぐるぐる歩きまわって疲れてしまったのもあり、猫の近くにしゃがみ込みました。話しかけても逃げないので何かを猫に話しかけていたと思います。横を通りかかったカップルも、人に慣れている様子の猫に関心を示し、猫との井戸端会話に加わってきました。電話はつながったままでした。
誰としゃべってんの?あ、黒い服でしゃがんでる?
気付くと後ろに山本さんが立っていました。山本さんが傍に来ると猫はびっくりして逃げてしまったので、猫を紹介することはできませんでした。一緒に話していたカップルとなんだか気まずい感じの会釈をし、海鮮料理を食べにいきました。
お酒を飲んでいると、山本さんからこう言われました。
さっき、猫に話しかけてる君が俺の方を振り返ったとき、なんか、ドラマのワンシーンみたいだったんだよ。
私は、山本さんのその言葉がよくわかりました。なぜなら私自身も、車のライトが顔に当たって少し霞む山本さんの様子や、「私のことを探し出してくれた人」というフィルターがかかり、あの瞬間やけにドキドキしていたからです。本当に一瞬、ことばを飲みましたが、あ、山本さん、ここに猫がいたんだよ、と何喰わない顔で切り出したのでした。
なぜこのことを急に思い出したか、そのきっかけは忘れてしまいましたが、山本さんとはもう連絡をとっていませんし、取ることもできません。(ブロック削除してしまったので)でも、私は山本さんとの数々の思い出が忘れられないでいるのです。それは、山本さんといるのが楽しかったからだと思います。ではなぜ会うことが出来なくなったのでしょうか。それは、早い話、私は2番目の女だったのです。浮気相手でした。
それが判明したとき、本当に悲しくて、絶望しました。山本さんの彼女が私とのラインをみてしまったことが原因で、浮気はバレてしまったようでした。山本さんは、本当は彼女がいたことへの謝罪と、彼女はいるけど、君との関係も続けていきたいと伝えてきました。
それまでも山本さんは、私のことを好きだと言いながらも付き合う気はなかったので、私にとってもそれが一番良い距離感なのだろうかと思っていましたが、山本さんにとって都合がいいだけでした。また、知らず知らずのうちに、ひとりの女の子を傷つけてしまったことにショックを受けたました。
もし山本さんが恋人だったら、きっと楽しいだろうなと思っていましたが、そのような気持ちはその瞬間、遠いところへ飛んで行ってしまいました。被害者ぶるのは良くないと思い、山本さんの前では抑えておりましたが、私の気持ちも少し傷ついたようで、家に帰って少しばかり泣いて、ラインをブロックした次第でありました。このご時世、ブロックしてしまうと簡単に関わりが切れてしまいます。つながることも、はなれることも容易い世界が、たまに虚しく思えてきますね。
まあ、しかし、これもまた人生の教訓です。これから関係を持つかもしれない人には、事前に、入念に、パートナーがいないか調べるようにしようと、恋愛の神様に誓いました。また、「モテそうですね」と言ったときに、含み笑いで「モテないよ~」と返してくる男の人には要注意だと深く心に刻んだのでした。
上海